※この記事は「劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~」の内容のネタバレを含みますのでご注意ください
「劇場版おっさんずラブ」の2回目を観てきました。
ストーリーの流れが頭に入っている状態で観ると、初見のときとは少し印象が変わりましたので、改めて感想を書いてみたいと思います。
あくまでも個人的な考えですが、自分の中に落とし所をつけるためにも長々と書き綴っています。
よろしければ、お付き合いください!!
初見時の感想は↓コチラ↓
2回目は牧の心情に寄り添って観てみることにした
細かい突っ込みどころや気になるところは多々あれど、初見で1番腑に落ちなかったのは牧の感情の流れでした。
連ドラ版を観ていたときには、「春田さん大好き」っていうオーラを牧が出しているような、そんなイメージがあったんです。
でも、劇場版だとやっぱりちょっと愛情冷め気味に見えた気がして…;
いや、そんなことないんだろうなって分かる場面もあったんですが、それでもちょっと冷めてたような…?
おっさんずラブでの私の推しキャラは牧なので、どうしても気になってしまい、今度は牧の気持ちに寄り添いながら観てみようと心に決めて、再び映画館に足を運びました。
とりあえず連ドラを見返してみた
「再び映画館に足を運びました」と書いておいてすぐにアレなんですが、劇場版の2回目をキメる前に、とりあえず連ドラ版を全話観て復習してみました。
連ドラから1年が経過していますからね、記憶の中の牧と実際の牧は違うかもしれないなーと思いまして。
すると、やっぱり記憶の中の牧は自分のイメージで色付けしちゃってたんだなぁと分かりました。
まず、牧凌太という男は、言葉で語らず瞳で語る人間だということ。
そして、その瞳での語りは、画面に映されているからこそ我々にも分かるんだということ。
牧が春田さん大好きで切ない気持ちを抱え込んで苦しんでいたことは、連ドラを観ていた私たちは知っています。
でも、大抵の場合、その感情を乗せた牧の瞳を真正面から受け止める相手がいません。
春田やその他の人物に直接向けるのではなく、背中や虚空に視線を送っているんです。
連ドラでは、そんな切ない牧の表情をカメラがたくさん追いかけて撮っています。
でも、劇場版では春田と牧の勤務先や住居が離れてしまったこともあり、また牧自身が仕事で忙しいこともあってか、恋愛に思いを馳せる系の牧フェイスがあまり出てきません。
牧は自身の気持ちをあまり口に出さずに飲み込んでしまうタイプの人なので、口ほどに物を言う瞳の描写が減ってしまえば、彼の感情の流れが分かりにくいのは必然なんだろうなぁと思いました。
ましてや、初見は話の流れを追うのに一生懸命になるので、余計にそうですよね。
2回目を観るときにはストーリーは分かっていることだし、牧の気持ちに寄り添っていこうと改めて思いました。
冒頭のやり取りで空白の1年間の様子を予想できる
さて、劇場版で牧が最初に登場するのは香港です。
ニーハオ★とニコニコとやって来た、あのときですね。
春田の浮気疑惑に牧は呆れて&怒ってすぐに帰国してしまいますが、あのシーンから、この1年間の2人の様子をある程度予想することができます。
牧はスーツでやって来た
仕事用の鞄の他にスーツケースを引いていて、着用しているものはスーツ。
なんでだろう?と考えてみて、鳳凰山との仕事関係で香港に来た可能性、そして日本での仕事を終わらせてすぐにそのまま香港に訪れた可能性があるなと思いました。
いずれにせよ、着替える間も惜しいほどすぐに春田に会いたかったのではないかと推察できます。
牧は春田の仮住まいの合鍵を持っている?
インターホンを1度鳴らしてはいましたが、牧はそのまま春田の仮家に入ってきます。
鍵がかかっていなかったからとも考えられますが、牧は合鍵を持っていたのではないかとも考えられます。
というのも、牧がやった来たときの春田の驚きの中には「勝手に家の中に入られた」というニュアンスはなく、「予告無くサプライズで牧が来てくれた」という喜びしか無かったからです。
それに、もしも鍵をかけていなかったとしたら、牧ならご機嫌よくニーハオって言う前に「不用心ですよ」ってお小言を漏らすと思うんですよね。
つまり、牧は合鍵を持っていて、合鍵が必要な程度の頻度で、春田に会いに来ていたのではないでしょうか。
春田から牧へのスキンシップがすごい
連ドラのラストシーンの様子と、劇場版の冒頭での様子を見比べてみると、春田から牧への愛情が大きく育っているのがよく分かります。
自分から抱きついていくんですよ、あの春田が…!初見時は本当に驚きました!!
そして2回目、少し余裕を持って眺めてみると、スキンシップ過多な春田に驚くこともなく平然としている牧に気付きます。
つまり、2人の中でこれはもう当たり前の光景なんですね。
たぶん牧はそんなに我慢しない1年だったんだと思う
今まで上げてきたポイントをまとめてみると、遠距離恋愛とはいえ2人は頻繁に会っていたということになります。
連ドラ版のラストで牧は「もう我慢するのはやめた」と宣言しています。
その通り、会いたくなれば会いに来て、春田との愛をめいっぱい深めていたのではないでしょうか。
だから牧は合鍵を持っているし、2人の距離感がドラマの時よりもぐっと近付いていたんじゃないかなぁと思いました。
そしてたぶん、このときの牧は本気で浮気を疑っていたわけじゃないと思います。
ちずに話したときも冗談混じりに浮気と言ったか、もしくは牧の話を聞いたちずが「それって浮気じゃん!」と判断したか…いずれにせよ、ゲイではない春田が他の男と浮気するとは考えにくいはずです。
それでも、大好きな恋人が他の奴と裸で寝ているのが腹立たしかったんでしょう。
当然の反応だと思います。
もし牧が会いに来たときにあのベッドで一緒に寝ていたんだとしたら、そこに他の奴がいたらかなりムカつくでしょう。
とにもかくにも、春田はもちろん、牧も遠恋中に愛情を募らせ育んでいたであろうことは、この短いシーンから察することができました。
同棲を解消したのは別れたくなかったからなのでは?
牧はとにかく疲れている
Genius7に抜擢された牧は、やり甲斐を感じながらも、慣れない業務に疲労とストレスを重ねています。
ある程度の勤務経験がある社会人であれば気持ちが分かる人も多いと思いますが、自分のやりたかったジャンルの仕事でキャリアアップできるチャンスを掴んだときって生き甲斐を感じますし、そこで忙しくなると、慣れるまではプライベートが割とおざなりになりがちです。
そして、まさにその状態なのが劇場版の牧です。
自分1人であれば家事なども適当に出来ますし量も少ないですが、春田が帰国したことによって2人分の家事になると負担も大きいです。
春田も気を使って少しずつ家事に手を出そうとしてますが、今まで世話を焼かれるばかりだった人が急に出来るはずもなく、気持ちはありがたいけれど結果的に補完するための作業が増えてしまって気が滅入る…という牧のウンザリ感はよく分かります。
仕事が大変で他に気を回している余裕がないときにこれでは、心身ともに疲労が倍増していくわけです。
大好きな人に「おかえり」と言ってもらえる幸せを噛みしめる余裕がないほど、牧は疲れているんですね。
日常のややこしいことは先送りにしたい
とにかく今は仕事に集中して乗り越えたい牧としては、春田との関係の進め方とか、共に暮らしていくにあたっての弊害とか、そういった問題点は先送りにしたいはず。
家事の分担がどうとか、互いの家族への理解の求め方とか、とにかくそういうのは後にしたい…今は向き合っている余裕が無い…って感じだと思います。
先の展開の話ですが、劇場版の終盤の炎に囲まれているあのシーンで、牧は仕事が多忙であることを言い訳にして春田と向き合わなかったと認めています。
疲れているときって、普段以上に家族の粗というか悪い部分に目がいきがちです。
春田を嫌いになりたくないから少し距離を置いてみたい、という気持ちもあったんでしょう。
春田が母にカミングアウトしようとしたのを止めたのも、今はまだ一悶着起こしたくないという思いからだと感じました。
牧は生活のすれ違いによる破局を経験している
牧は武川と交際していた時期があり、それこそ最初は牧の方が惚れ込んでいたようなのに、それでも別れてしまっています。
その理由について、連ドラで武川は「自分は営業所、牧は本社勤務で、生活のすれ違いが原因だった」と語っていました。
牧の方がどう考えているのかは明かされていませんが、生活のすれ違いをきっかけに気持ちのすれ違いが生まれたのは確かだと思うのです。
劇場版の春田と牧も、生活のすれ違いから気持ちがすれ違い始めます。
それを薄々感じた牧は、武川の二の舞にならないよう、春田と完全にすれ違う前に一時的に距離を置いてみることにしたのかもしれません。
つまり春田と別れたくない気持ちが大きい
上記を総合して考えてみると、牧は春田と完全に別れたくないがために、一時的な別離を選んだのではないかと思われます。
牧が実家に帰るとき、見送る春田は納得がいっていない面持ちですが、牧はどこかサッパリした雰囲気を出していますよね。
家事から解放されて生活に余裕ができたし、今はとりあえず仕事に専念しつつ、山場を越えたら春田さんときちんと向き合おう。
牧としては、そんなビジョンを描いていたのかもしれません。
後に花火の場面で「何でもギャーギャー言いたくない」と言っていたので、少し離れている間に春田も何か考えてい察してくれるといいなという期待もあったかもしれませんね。
それは牧の若さというか、年下ゆえの甘えのようにも感じます。
たぶん、牧はもともとは武川や狸穴のような落ち着いた雰囲気の大人の男が好みなんでしょうね。
しかし、牧が本気で惚れ込んでしまった春田は8歳年上ではありますが、何でも言葉にしてハッキリ伝えないと分かってもらえない超絶鈍感男なのです…。
自分から離れたとはいえ愛情が冷めたわけじゃない
忙しくてもやっぱり顔は見たい
本社からは実家のほうが近いから…と言っていたのに、牧はわざわざ「わんだほう」に現れます。
階段で転倒した部長が気がかりだったのもあると思いますが、それ以上に春田に会いたいかったのでは。
事前に連絡を取り合って待ち合わせていたわけではなさそうなので、会えたらラッキーくらいの気持ちだったのかもしれません。
会いたかったとか寂しいとか、牧はそんなことを口に出すような性格ではないですが、そういった気持ちは少なからずあったはずです。
あとは、ちょっと意地悪な見方をすると、春田とちずの様子が気になったりしたのかもしれませんよね。
春田とちずはタイミングが噛み合えば交際していた可能性も高いので、自分が距離を取っている間に何かが起きてしまう確率もゼロじゃない…と牧は考えていたかもしれません。
春田的には牧にゾッコンなので、そんな心配はご無用なわけですが(笑)
春田がちずと牧の仲の良さというか意気投合っぷりに悶々としている様子がありましたが、牧は牧で多忙な心の片隅で心配していたかもしれません。
「わんだほう」の帰り道、2人でじゃれあっている顔はどちらも幸せそうですよね。
春田のネクタイを引っ張りながらじっと見つめる牧の視線には、溢れんばかりの愛情が滲んでいました。
じゃあ、と別れたあとも、牧はじっと春田の背中を見つめていた。
あのまま春田が振り返らなかったら、きっと姿が見えなくなるまで見つめていたんでしょうね。
春田さんに手を出す男は絶対に許せない
伝説のサウナシーン。
なんというか、劇場版の中で牧が1番イキイキしていた場面かもしれません(笑)
もう春田に手を出すことはないと思っていた部長が、再び春田に迫っている!…となれば、牧はもう瞬時に怒り狂ってしまう。
油断していたことに加え、連ドラ2話のときと違い今の牧は本当に春田のパートナーなわけで、余計に怒りが倍増したのかもしれませんね。
サウナなんていう密室で黒澤部長は春田に迫っているし、その春田は自分の状況を棚上げして牧と狸穴に疑いの目を向けてくるし、そりゃあもう例え今の上司が隣にいても「ちょっとすみません」と一言断って戦いに行きますよね(笑)
牧がここまで部長に対して容赦ないのは、「自分と同じくらい本気で春田を愛している男」だからなんでしょう。
同じライバルでも、ちずのような女性の場合、同性愛者であることに負い目を感じている牧は引き下がるしかない。
でも、部長は男なので、遠慮なく戦える相手なわけです。
ジャスティスが春田の胸元を揉んだりつついたりしているときにも、牧は「触んな!!」と本気で怒っています。
下世話な話ですが、近頃は自分だって触れていない恋人の身体(しかも素肌)にベタベタ触られたら、そりゃあ腹立たしいでしょうね…;
牧は普段は抑えがちですが、本当は割と熱いというか激情型なのではないかと私は思っています。
たまには、こうして感情を剥き出しにするときも必要でしょうし、そういった意味では部長とぶつかり合う機会は大事かもしれません。
間に挟まれる春田は大変だと思いますが(笑)
離れていても想う気持ちは変わっていない
上記の場面から、牧の春田への愛情や執着は変わっていないことが分かります。
夢を追いかけて仕事に励んでいても、春田を想い求めている気持ちに変化はありません。
春田は帰国したばかりのとき、ちずに「あいつすげぇ変わった」と言っていましたが、むしろ本来の牧の姿に戻っただけで、春田への気持ちは変わっていないし、性格が変化したわけじゃないと思われます。
連ドラでは春田と牧が結ばれるまでの恋に重点を置いているので、牧に関しても恋愛描写が多かったです。
でも、彼はもともとエリートで、入社して3年の時点で既に割と大きな仕事を成功させていたし、「わんだほう」買収騒動のときにも熱心に取り組んでいました。
営業所での小さな仕事にも一生懸命でしたし、本来は仕事人間気質なんでしょう。
入社前はふわふわしていた仕事意識が、実際に業務に取り組んでいく中でやりがいや面白さを見つけ、大きな目標や夢を掲げるようになるというのはよくある話です。
牧も、きっとそうなんだと思います。
過労で倒れたことを言わなかったことに悪意は無い
サウナ事変から数日後、牧は過労で倒れてしまいます。
そのことを春田に知らせなかったのは、余計な心配をかけたくないという想い、春田が懸念していた通りになってしまったバツの悪さと情けなさ・悔しさがあったのではないでしょうか。
春田は、仕事に夢中な牧に対し、体を壊したら元も子もないぞとやんわり言っていました。
まさに、その通りになってしまったわけですね。
多少は気まずさもあったでしょうし、牧は自己評価が低く自分を責めがちなので、体調管理能力の至らなさを情けなく&悔しく思ったりもしたはずです。
そして、何より余計な心配をかけたくない気持ちがあったと思います。
ずっと楽しみにしていた花火大会は目前だというのに、牧が過労で倒れたと知れば、優しい春田なら花火よりも休養を優先するよう勧める可能性も十分に高いのです。
牧が春田との花火デートの約束を非常に楽しみにしていたことは、通称きんぴら橋のシーンでもよく分かりますから、絶対に行きたかったのでしょう。
おそらく、牧は過労で倒れたことをあまり人に言いたくなかったんだと思います。
道端で倒れれば実家に連絡がいってしまうのは仕方がないし、上司である狸穴に報告しないわけにはいきません。
でも、それ以外には言いたくなかった。
まさか父親経由で春田が知ってしまうとは思わなかったはずだし、部下思いの狸穴が病院にやって来たところを春田が目撃してしまうとは予想できなかったはず。
牧は悪意があったり気持ちが離れているから春田に知らせなかったのではない、と察することができます。
やっぱり本音に蓋をしてしまった花火大会
幸せいっぱいな花火大会前半
花火大会の祭会場で、牧は少し緊張と憂いが混ざった面持ちで春田を待っていました。
春田が来てくれるかどうか不安に思っていたのかもしれないな、と私は感じました。
実際、割と直前の屋上バスケのシーンで春田は「行かねぇよ」と言っていましたよね。
そのあと牧母が現れて話をしたことで、甚平姿で花火大会へ向かうわけですが。
父親が春田に言ったことを、牧は母親から聞いていたのではないでしょうか。
そして、それを聞いて春田は来ないかもしれないという不安を抱き、母に話したような気がします。
だからこそ、牧母はフォローするために春田に会いに行ったのではないかなぁと思います。
体調はもう大丈夫なのかと春田に尋ねられたときの牧の反応は、とても不安定です。
場合によっては、ここで「今日はもういいから帰って休めよ」と言われるかもしれないですしね…。
でも、春田はそれ以上は何も追求せず「行こうぜ」と笑顔で言ってくれました。
牧はほっとしたでしょうし、それからは束の間の幸福をめいっぱいに感じたと思います。
このときみたいな幸せそうな2人の顔を、作中でもっとたくさん見たかったですねぇ…。
ひたすらしんどい花火大会後半
春田が牧のスマホを覗いてしまったことがきっかけで、あんなに幸せそうだった2人は一気に険悪なムードに。
売り言葉に買い言葉という感じで、牧も「狸穴さんはそんなガキみたいなこと言わない」と言ってしまいます。
そのあとすぐに「しまった…」という感じの表情をしていたので、牧としても失言だったと思ったのでしょう。
本当は、ここでちゃんと素直な気持ちをぶつけておくべきでした。
春田にはストレートに言わないと伝わらないし、正直な気持ちを投げつけたところで今の春田の愛情が冷めたりはしないので。
でも、それでも牧は、自分の心に蓋をしてしまいます。
「別れようぜ」と言われても、「そうですね」「今までありがとうございました」とだけ言い残して背を向けてしまう。
本当はこれっぽっちも別れたいとは思っていないのに、それでも別れを受け入れてしまったのは何故なのか。
そもそも、牧は相手の幸せばかり願ってしまう人です。
我慢しないって決めたって、結局は我慢してしまう。そういう人間なのでしょう。
春田から別れようと言われたとき、今は別れたくないとゴネてもいつかはきっと別れてしまうという未来を見てしまったのではないでしょうか。
だったら、ここで引いてしまった方がいいのかもしれない。そう思ったのかもしれません。
自分を信じてくれない春田への苛立ちや失望、察して見守ってくれないことへの不満、そういった気持ちが溢れて「もういいや」となってしまったのもあるでしょう。
ただ、牧はもともと春田のダメな部分も引っくるめて愛したわけで、自分の恋人がポンコツなのは分かっていたと思います。
それでも今は牧自身があまりにも余裕が無いということ、まさか狸穴とのことをそんなに疑われているとは思わなかったというショックも大きかったんではないでしょうか。
涙をたくさん溜めながら花火を見上げる牧の瞳には、悲しみと後悔と未練が滲んでいました。
牧にとっての春田は、初めて父親にカミングアウトしようと決心するほどまでに真剣に愛した相手であり、とても大切な人です。
本当は牧だって、春田と互いに支え合える家族になりたいと思っていたはず。
今はせっかく大きくキャリアアップできるチャンスに恵まれているのでそちらに集中したい、自分を信じてしばらく見守っていてほしい、春田にそう一言伝えられたら良かったんですが、それが言えないのが牧凌太のいじらしさなんですよね。
体が勝手に動いてしまうくらい愛している
考えるより先に飛び出して行ってしまう
ケンカ別れしたあと、牧の知らないところで春田と狸穴の接触があり、春田がまさかの人質になってしまう事件が発生。
鳳凰山からのビデオメッセージ(?)への反応からして、会長の娘・薫子が捕らわれていることは把握していたであろう牧ですが、さすがに春田が巻き込まれているのは予想外だったはず。
動揺して血の気が引いた牧は、狸穴に何も言い残すことなく会社を飛び出して行きます。
これ、なんで牧は春田が捕らわれている区域を把握しているのかと不思議だったんですが、薫子が捕らえられている場所を知っていたとか、鳳凰山が抑えてる地域を把握しているとか、そういうことなのかもしれませんね。
別れようぜって言われたのに、別れたから元恋人のはずなのに、それでも春田が危険な状態だと知れば血相変えて駆け出して行ってしまうところにキュンとしました。
本音を晒け出せるのは部長の前でだけ
春田救出に向かう途中で部長と遭遇した牧は、小競り合いをしながら廃工場の奥へと向かっていきます。
記憶喪失のフリをしてワンチャン狙っているのではと疑う牧に対し、部長は自分の気持ちを伝えたいだけだと返します。
ここで牧は、「気持ちなんか言わなくても伝わる」と反論するんですね。
これは、全てを口にしなくても分かってほしい、という牧の願望が表れた言葉のようにも感じられます。
そして、部長はここで、言わなくても察してほしいというのは構ってちゃん、本当に愛し合っているのなら格好悪い姿も全部見せられるはずだ、と諭しました。
「はるたん」を追いかけていたときの部長も、今の「はるぽん」を求めている部長も、とてもまっすぐでひたむきで自分の気持ちを正直に伝えますよね。
そんな黒澤武蔵が言うからこそ、重みがあって響くメッセージなのだと思います。
連ドラ2話でも、劇場版のサウナや廃工場でも、春田が絡んだときの部長に対してだけは牧も自身を剥き出しにできる。
好敵手からのエールは、牧の心にも沁み渡ったのではないかと感じました。
無垢な春田を思わず抱き寄せる
薫子はジャスティスに託し、鉄骨に阻まれてしまった部長も離脱し、春田と牧は互いにボロボロになりながらも支え合って脱出しようと頑張ります。
その道すがら、春田は別れようという言葉を取り消したいと言ってきますが、牧は明確な返答はしません。
春田が見つけた夢に関しても、尋ねたりしません。
おそらく牧は、この時点ではまだ春田の本心が見えておらず、2人で生きていく覚悟を決めかねていたのだと思います。
春田は元々ストレートで、牧と結婚したいと言っているけれど、男同士の交際の難しさを現実的に捉えていない。
その現実を直視したとき、きっと春田は自分から離れていってしまう。
そう考えていたのかもしれません。
だから、ハッキリとした答えを返せなかった。
でも、春田の愛情は牧が思っているよりもずっと深く大きかった。
結婚できなくても、子どもができなくても、それでも牧がいい。
そのあと春田が上げる10項目を纏めると、牧が年を取っても格好悪くなっても愛情が冷めがちになっても自分のことを分からなくなってしまっても、それでも牧と生きていたい。そう言っているんですね。
「牧じゃなきゃ嫌だ」
「死んでも牧と一緒にいたい」
迷子の子どものように一生懸命、無垢な涙を流して泣きながら訴える春田の言葉が、とうとう牧の心を溶かします。
劇場版では、牧から春田へ触れる描写がほぼありません。
でも、ここで牧は春田を抱き寄せて、しっかりと抱きしめます。
そして、ようやく何の飾りも防御もない言葉を、「俺も春田さんじゃなきゃ嫌だ」と零すことができるのです。
愛情は魂に刻まれている
別れていたはずなのに、それでも体が勝手に動いて愛しい人の元へ駆けてしまう。
牧から春田への愛情は、もう理屈でどうにかできるものではなく、本能──もとい魂に刻まれているのだと思います。
連ドラ版の牧なら、きっと理性の方が勝っていた。
連ドラ版から劇場版までの1年間、遠恋でも愛情を深めていたのは春田だけではなく牧も一緒です。
2人の心の底にあるのは「お互いじゃなきゃ嫌だ」というシンプルで深い想いです。
血の繋がりを超えて家族になるために1番必要なものは、法律や指輪や世間体などではなく、その気持ちを通じ合わせることなのかもしれません。
シンガポール行きは一時的な別離にすぎない
春田が買った指輪は彼の牧に対する想いの象徴
鳳凰山との一件が落ち着き、今度は牧にシンガポールへの転勤の話が出てきます。
その話を持ちかけてきた狸穴が「お前にも家庭があるし…」というようなことを語っているので、春田と牧は再び同棲しているのではないかな?と考えることができます。
シンガポールか…と考え込む牧は、春田が香港で買っていたダイヤの指輪を持っていました。
ここで少し牧の心情から離れる話題となりますが、このダイヤの指輪は春田から牧への気持ちを象徴しているのではないかと私は考えています。
劇場版の冒頭で指輪を追いかけてワタワタしていた場面は単なるアクションではなく、連ドラ版での春田から牧への想いを象徴している、いわば「あらすじ」に近いものかもしれないなぁと思ったんです。
不意に思いがけないところで運命の出逢いを果たしたダイヤの指輪は、あまり深く考えず春田が手にすることになりましたが、様々なトラブルに行く手を阻まれて消えてしまいます。
春田がそれを見失いながらも懸命に追いかけた結果、ちゃんと手中に戻ってきてくれました。
そのあと、春田はダイヤの指輪を持ち歩き続けていますが、花火大会で湖へ投げ捨ててしまいます。
別れ話をした後なので、牧への想いを捨て去ろうとしたことを表しているようにも見えますね。
そして、捨てたはずの指輪は、結局は春田の元へ流れ戻ってきます。
春田から牧への愛情は、もはや捨てようとしても捨てられないForever Loveになっているんです。
その永遠の愛は、鳳凰山事件を乗り越えたあと、牧の手に渡っています。
春田の想いが、しっかりと牧に伝わったという象徴にも思えるのです。
春田の愛情をきちんと理解したからこそ、牧はシンガポール行きを決心したのではないかと思います。
2人の指輪は信頼と愛情の証
ラストシーンで、春田と牧の指にはお揃いの指輪が嵌っています。
左手の薬指、一般的に結婚指輪を装着する指ですね。
牧は、春田が「死んでも一緒にいたい」という想いを抱いていることを知っています。
それでも今は夢を追うことを決意したのは、春田からForever Loveを受け取ったからでしょう。
少しのあいだ離れ離れになったとしても、そのあと共に生きていけると思えるようになったから。
必ず帰ってくる、信じて待っている、その愛情と信頼を約束した証が、あのペアリングなのではないかと感じました。
最後に牧を抱きしめるとき、そして互いに背を向けて歩き始めたとき、春田は寂しげで不安そうな顔をしています。
ジャスティスの家族の話を聞いた春田としては、ここでバイバイをしたあとまた牧に会えるとは限らないということを危惧しているようにも思えました。
同時に歩き出した2人は同じタイミングで立ち止まり、そしてまた同時に歩き始めます。
そこで振り返らなかったのは、相手を信じているから、そして決心が鈍らないようにだと思います。
牧だって、シンガポール行きは悩んだと思います。
上海行きをその場で即決した春田と違い、牧は狸穴から話を聞いたその場では何も返答していません。
春田を残して日本を発つことに、彼なりの葛藤はあったはず。
それが、最後の立ち止まりだと思うのです。
もしもあの瞬間に春田が振り返っている気配を感じたら牧も振り向いたでしょうし、そこで春田の物寂しげな顔を見てしまったら心が揺れたでしょう。
でも、春田は振り返らなかった。
それはおそらく春田が牧の夢を本当に応援しているからで、それを分かっているからこそ牧はそのまま旅立って行ったんでしょう。
私は、あのラストシーンをそう解釈しました。
結果的に牧の気持ちはちっとも冷めていない
長々と1万字に渡り牧の気持ちを考えてみた結果、彼の春田への愛情は少しも冷めていないと分かりました。
ちょっと冷たく見える態度もありましたが、それは牧に余裕が無くて疲弊しているからです。ただ、それだけ。
「お互いの嫌なところが見えてきて…」なんて語ってる場面もありましたが、そもそも牧は欠点だらけでポンコツな春田を丸ごと愛していた男です。
新たな欠点を見つけたのではなく、自分に余裕が無いから今まで許せていた部分もなんだかやけに目についてしまう…って感じだったんだと思います。
実際、改めて2回目の鑑賞をしてみると、春田が隣にいることで満たされたり癒されたりしているであろう牧の表情も色々とありました。
腑に落ちなかった牧の感情の流れが見えてくると、劇場版のおはなしがより一層面白くなった気がします。
同じ作品を何度も映画館に観に行く経験って刀シネ以来だったんですが、とても楽しかったです。
むしろ3回目も観に行きたいなぁ…とも考え始めています(笑)
今回の記事はこのブログを立ち上げてから最長の文量になりました!
ここまで長々とお付き合いいただき、ありがとうございました!!