※この記事には「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-」のネタバレが含まれますのでご注意ください
3週間限定公開の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-」を観てきました。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」らしい温かくて切ない物語、そして京アニらしい繊細で丁寧な仕上がり。
3週間だけの限定公開というのが本当にもったいないと思えるほど、素晴らしい作品でした。
ネタバレも交えて感想を書いていきたいと思います。
原作やアニメ本編を知らなくても胸を打たれる物語
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の原作は暁佳奈先生による同名小説です。
そして、京都アニメーションが手掛けた全13話のアニメシリーズがあり、今回の外伝も京アニによって作られています。
この外伝は、原作やアニメで「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の物語の流れを知っていなくても、十分に楽しめるものとなっていました。
主人公・ヴァイオレットにとって、ギルベルト少佐という人の存在がとても大きく、アニメでも中心人物の1人だったのですが、外伝ではギルベルト少佐については殆ど触れられていません。
そのため、いきなり外伝を観たとしても置いてけぼりな感じはしないと思います。
とはいえ、ヴァイオレットのちょっとした言葉が持つ重みは、彼女がどれほどギルベルト少佐を想っているか、どれほど彼に救われたのかを知っていなければ実感できません。
さりげない一言がもつ悲しみや切なさを感じ取ることで、この作品のもつ深みが増します。
できれば、アニメの13話を視聴したうえで外伝を観たほうがいいでしょう。
アニメはNetflixで配信されています。
イザベラとエイミー
ヴァイオレットが3ヶ月の間家庭教師として傍にいることになったイザベラ・ヨークは、他者に心を開こうとせず、良家のお嬢様らしからぬ言動をしています。
物語が進んでいくにつれ、イザベラはヴァイオレットに心を開いていくようになり、なぜ彼女がそんな少女なのかが判明します。
イザベラというのは新たに受け入れた偽りの名前であり、彼女は本当はエイミー・バートレットという名の孤児だったのです。
妹として育てることを決意したテイラーの命を守るため、エイミーは「イザベラ」として生きることを決めたのでした。
エイミーが幼子のテイラーに指を握られたときに芽生えた感情は、姉というよりも母性に近いものだったのではないかと思われます。
女性であれば分かると思うんですけど、赤ちゃんや小さな子供に触れたときに胸がきゅっとなる独特の感情がありますよね。
自分の子供ではないから完全な母ではないけれども、それは確かに母性に近い気持ちだと思うのです。
きっとエイミーも、母性に似た想いを抱いていたのでしょう。
だからこそ、自分の名前や人生を捨ててでも、テイラーの命を守ることを選んだのだと思います。
女学校を卒業したエイミーは、ヴァイオレットへの手紙の返事も書かなくなり、消息を絶ってしまいます。
それはきっと、エイミーではなく「イザベラ」として生きてゆかねばならない覚悟を固くしたからではないでしょうか。
上流貴族に嫁いだイザベラは、ずっと黒いドレスを身にまとっています。
まるで喪服のような出で立ちは、「エイミー」を弔っているように思えてなりませんでした。
その後、成長したテイラーは懸命に文字を覚え、エイミーへの手紙を書き、ベネディクトと共に届けに行きます。
自分はエイミー・バートレットの妹であるテイラー・バートレット。
そんな短い内容の手紙でしたが、テイラーが元気に生きていること、テイラーの心の中にエイミーが生きていることを知ったイザベラは、そのときにようやく「エイミー」の心を解放します。
テイラーは、エイミーについての記憶が曖昧でした。
でも、慈しんで育ててもらっていたことは断片的に覚えていて、実際に間近でエイミーを見たときに愛しさ恋しさを涙として溢れさせます。
姉妹というよりも、母娘に近い愛情の応酬だなぁと私は感じました。
どちらにしても、素晴らしい絆だと思います。
テイラーの手紙によってエイミーとしての自分を取り戻せたイザベラは、白いドレスに身を包み、青空の下でテイラーの名前を呼びます。
その横顔は、物語の中で1番輝いていて、美しいものでした。
ヴァイオレットの心もやわらかく成長している
エイミーとテイラーの姉妹を支え続けるヴァイオレットは、ドールとなったばかりの頃とは比べ物にならないくらい、やわらかく優しい少女へと成長していました。
人の心が分からず、人の気持ちを思いやることが苦手だった彼女が、姉妹たちに献身的な慈愛を注ぎ続けている姿に胸を打たれました。
どうしてそんなに優しくしてくれるのかという問いに、ヴァイオレットは真似をしているだけだと答えます。
ギルベルト少佐、そして郵便社の仲間たちが、自分をあたたかい眼差しで育てて傍にいてくれたことを指しているのでしょう。
周りから優しくされること、自分も優しくすること、そういったあたたかい交流がヴァイオレットにとって当たり前のものになっている様子が嬉しいです。
きっと、もっともっとたくさんの感情を知っていって、これからも成長してゆくのでしょう。
涙が止まらないエンドロール
本作を映画館で観ていてとても印象的だったのが、エンドロールでした。
誰ひとりとして席を立たず、スタッフロールをじっと見つめて、静かに涙を流している人が多かったです。
京都アニメーションは、とても悲しく痛ましい事件に巻き込まれました。
こんなにも優しく温かく美しく素晴らしい作品を作ってくださった方の中には、命を落としてしまったり、大きな負傷で苦しんでいる人がいらっしゃるのです。
その無念さ、悔しさ、悲しさ。我々は思いをひとつにして、スタッフロールのお名前ひとつひとつを見ていたのだと思います。
そして、胸にぐっときたのが、役名が「イザベラ・ヨーク」ではなく「エイミー・バートレット」となっていたこと。
「イザベラ・ヨーク/エイミー・バートレット」という記載でもなく、エイミーであると言い切っているところに感動しました。
細かい部分ですが、こういったところにまで繊細な思いが行き届いているのだなぁと思いました。
ED主題歌のタイトルも、エイミー。
歌っている茅原さんが作詞されているのですが、詞もエイミーとテイラーの気持ちに寄り添って書かれているものでした。
この作品のためだけに作られた曲というのがよく分かる名曲です。
とにかく涙が止まらないエンドロールでした。
主題歌「エイミー」を聞きながら思い出すだけで、不思議と泣き始めてしまいます。
そのくらい胸に残る物語でした。
2019/9/6から3週間だけの限定公開です。
少しでも気になっている方は、ぜひ映画館へお急ぎください!!