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映画「閉鎖病棟-それぞれの朝-」は重たいけれども人間のあたたかさを感じられる作品!※ネタバレ感想

映画

※この記事は映画「閉鎖病棟-それぞれの朝-」のネタバレを含みますのでご注意ください

映画「閉鎖病棟-それぞれの朝-」を観てじんわりと感動したので、ネタバレを含みながら感想をおはなししていきたいと思います。

実は、私は試写会に当選して公開日よりも2週間ほど早く観ました。
派手な印象の作品ではないですし、原作から大きく改変されていた部分もありますが、全体的によくまとまっていた良作だと感じています。

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原作未読でも問題なく楽しめる

この映画の原作は、精神科医でもある帚木蓬生先生が書かれた「閉鎖病棟」です。

私は大学生時代に心理学を専攻していたこともあり、以前に一度読んだことがあります。
しかし、大きな流れは覚えていたものの忘れていた部分も多かったのですが、そんな曖昧な記憶でも問題なくストーリーを追える映画に仕上がっていました。
原作が未読でも、問題なく楽しめると思います。

また、あやふやな記憶とはいえ、いくつか改変されていたり、割と重要だったはずの登場人物がいなかったりしたのには気づきました。
2時間弱という映画の枠内に収めるため&現代とあまり違和感なくするための改変だと思いますが、ちょっと説明不足に感じてしまう部分もあったので、映画を観て補足情報が欲しいという場合には後から原作を読むのもいいかもしれません。

一緒に観ていた母は原作未読でしたが内容に満足していたようでしたし、とても良い作品だったとしみじみ呟いていました^^
私は復習ということで、もういちど原作を読み直してみようと思っています!

不器用ながらも温かな心をもつ人たちの物語

「閉鎖病棟-それぞれの朝-」の主役は、笑福亭鶴瓶さんが演じる秀丸、綾野剛さんが演じるチュウさん、小松菜奈さんが演じる由紀の3人です。
精神病院で出会った3人が、初めはぎこちなく、徐々にあたたかな友好関係を築いていきます。

秀丸とチュウさんは元々とても仲が良く互いを信頼して支えあっていて、そこに由紀が新たに加わる形です。
最初の頃は反発的で生意気な態度だった由紀も、病院での日常を通じて少しずつ素直で素朴な少女になっていきます。

秀丸は元死刑囚で、死刑執行されたものの絶命しなかったため、特例という形で色々な病院をたらい回しにされながら幽閉されているような状態です。

チュウさんは他の患者と比較すると随分と状態が良いように感じられますが、心に大きな負荷がかかる出来事があると幻聴と共に発作を起こしてしまいます。

由紀は精神病患者ではありませんが、義父からの性暴力により妊娠させられて病院の屋上から飛び降りて堕胎し、一時は無理やり退院させられたものの再度入院することになりました。

3人とも、本来は穏やかで優しい人間なのです。
相手の痛みに寄り添い、支え癒そうという心をもつ人たちです。
でも、それぞれに生きづらさを抱えていて、この社会に傷ついています。

そんな不器用な彼らが寄り添いながらあったかい交流をしている姿は微笑ましく、序盤~中盤まではそこまで大きな出来事はなく地味ながらも優しい雰囲気を感じられました。

平穏な日常を壊す厄介者・重宗

精神病院という特殊な場所ながらも、そこで暮らす患者たちはそれぞれ問題を抱えながらも懸命に生きています。
チュウさんのバザー(本当は禁止されてるけど)を楽しみにしていたり、院内のカラオケ大会を楽しみにしていたり。
生きがいを見つけて日々を一生懸命に生きていくのは、障がいがあっても無くても同じなんですよね。

そんなこんなで、院内での日常は比較的穏やかで平和なのですが、それをぶち壊す厄介者──重宗という男がいます。
スタッフや他の患者に乱暴な言動をして暴れたり、物を壊したり、その場の空気を崩壊して冷やしたり。
とにかく、粗暴で嫌な奴です。

ただ、重宗は重宗で、皆の輪に入れない孤独・上手く馴染めないもどかしさ・なんでこんな所にいるんだという苛立ちを感じて、彼なりにいっぱいいっぱいだったのかなとも感じられます。
まぁ、その原因は自分の凶暴性にあるので、なんとも言いがたい部分がありますけども…;

この重宗、最終的にとんでもないことをやらかします。
なんと、由紀を強姦してしまうんです!最低!この時点で前述のちょっとした同情点のようなものは無くなりました!!

視聴者の中で私のように重宗に怒りをおぼえる人は多いと思いますが、由紀と仲が良かった作中の人たちの怒りはそれ以上です。

暴行現場をたまたま目撃してしまったものの、助けることはできなかった昭八が現場を写真撮影し、チュウさんに見せることで由紀の身に起こったことが知られていきます。

チュウさんは秀丸に報告・相談し、そして、秀丸は重宗を殺害してしまうのでした。

秀丸はなぜ重宗を殺したのか

チュウさんに対して「俺がどうにかするから」と言っていた秀丸。
彼の言う「どうにかする」は、あろうことか重宗の殺害でした。
もっと他の方法は無かったんでしょうか?

重宗は、言葉が通じるような相手ではありません。
誰の言葉にも耳を貸さず我が道を行き、気に入らなければ暴力で支配しようとする。
そんな相手に対し秀丸ができるのは、「足が不自由なジジイなんて簡単にぶっ倒せる」と油断している重宗を返り討ちにすることだけだったのかもしれません。

それに、作中においての精神病院は、精神疾患を抱えている患者のための場所であると同時に、世間から鼻つまみされている厄介者を押し付ける場所でもあるように感じました。
運よく重宗がこの病院を立ち去ったとしても、どう見ても厄介者である彼の行先はきっと他の精神病院のはず。
秀丸がたらい回しされていたように、重宗もそうなるかもしれない。
そうすると、第二・第三の「由紀」が生み出されかねません。

重宗のような人間が生きていてはいけないと秀丸が考えたとすると、だったら自分の手で殺そうと決意してしまうのも頷けます。
もともと秀丸はこの世への未練は無さそうでしたし、自分の手は既に一度汚れているのだから適役だと考えたのかもしれません。
ここで罪を加算すれば、すぐに死刑になるかもしれないと考えたのかもしれません。

秀丸が重宗を殺害している場面を目撃してしまったチュウさんは駆け寄ろうとしますが、秀丸は「来るな!」と叫びます。
そして、頼むから殺してほしいと訴えるのです。

しかし、秀丸はそのまま逮捕されることになりました。

連行される秀丸を悪し様に言う人は、誰もいませんでした。
どの入院患者も秀丸を擁護するような発言を繰り返し、「待ってるから!」「頑張るんだよ!」と見送ります。

秀丸の逮捕をきっかけに前に進みだしたチュウさん&由紀

秀丸が逮捕されたあと、チュウさんは退院することを決意します。
仕事と母親の世話をしながら、自立して生きていくことを選ぶのです。

母親とチュウさんの家を売り払いたい妹夫婦は渋りましたが、看護師の井波さんがピシャリと苦言を呈してチュウさんの味方をしてくれます。
そんな井波さんは、病院の外に出るのを怖がるチュウさんに対しても「無理だったら、またここに戻ってきてもいいよ」と逃げ場所を用意しつつ、優しく背中を押してくれるのでした。

その後、チュウさんは秀丸のことを気にかけながらも、自分の生活をしっかりと送ります。
仕事もコツコツと続けて、褒められるほどまで成長しました。
病院にいた時から、幻聴発作が起きない限りは普通の人と何も変わらないようなチュウさんでしたが、それでも一歩一歩進んでいく姿には胸が熱くなりました。

そんなある日、秀丸の裁判が行われるのを知り、傍聴のために裁判所へ行きます。
なんと、そこで由紀と再会するのです!
由紀が伸びた髪をまとめているシュシュは、秀丸にプレゼントしてもらったもの。
言動が大人びた由紀は、とても綺麗な女の子になっていました。

由紀は重宗から暴行されて病院を飛び出したあと、看護師見習いとして働いていました。
そして、秀丸が逮捕されたことを知り、今日は証言台に立つために来たのでした。

証言台に立った由紀は、言葉を詰まらせながらも懸命に、秀丸には世話になったのだと言い募ります。
「本当なら、そこにいるのは私だったんです」と、重宗を殺したいほど憎んでいたのだということも打ち明けました。
そんな由紀の言葉を、秀丸は噛みしめるように聞いていました。

その後、裁判所の中を駆け回って秀丸を探したチュウさんは、警備員に止められながらも声をかけます。
「秀さん、チュウさんだよ!」「俺、退院したんだよ!」そう声を張り上げるチュウさんに、秀丸はしっかりと頷きました。
この場面が一番、胸にこみ上げるものがありましたし、実際に泣いてしまいました。

ラストシーンは、刑務所の運動場。
車椅子に座っていた秀丸がぐっと踏ん張って立ち上がる、というとても抽象的なシーンです。
ずっと歩くことを諦めていた秀丸が立ち上がった、これは即ち、ずっと生きることを諦めていた秀丸が生きようとし始めたという暗示でもあると思います。

チュウさんと、由紀。
秀丸が可愛がって目をかけていた2人は、かつて「病院を出たってどこにも行けない」と諦めていました。
そんな彼らが病院を出てしっかりと自分の人生を生き始めたのだから、自分も恥じることがないように生き抜こう。
秀丸はそう思ったのではないかな、と感じました。

秀丸に下された判決がどうだったのか等ふわっとぼかされていますが、良いラストシーンだったと思います。

余談:精神病院内の描写がとてもリアルだと感じた

物語の内容からは少々ずれた余談ですが、精神病院内の描写がとてもリアルで、さすが精神科医が原作を書かれただけあるなと感じました。

私は学生時代、研修や見学で何度か精神病院に行ったことがありますが、そのときの情景にかなり近いなと思います。
主要人物以外の患者たちの演技もとてもリアルで、皆さん演技力が素晴らしすぎるなとビックリしました!

精神科の患者は特殊・奇抜な言動をする人が多いので、どうしても世間の人々から怖がられがちなんですが、彼らはけっこうユニークで可愛らしい面を持っていたりするんです。
そういうことも、この映画を通して伝わっていったらいいのになぁ…とぼんやり考えました。

「閉鎖病棟」というタイトルから重苦しさを感じるかもしれませんし、実際にちょっと怖い場面もありますが、全体的に人間のあたたかみ・優しさを感じられる作品です。
秋~冬に公開されるのに相応しい、しっとりとした雰囲気の映画ですので、落ち着いた作品を観たい気分のときに是非どうぞ!